京都地方裁判所 平成8年(行ウ)24号 判決 1999年3月26日
京都市下京区西七条中野町九番地
原告
橋本孝夫
京都市下京区西七条中野町二八番地
原告
橋本典子
三重県伊勢市二俣三丁目九番二六号
原告
矢野原美子
大阪府豊能郡豊能町東ときわ台二丁月二〇番八号
原告
石田由美子
原告ら訴訟代理人弁護士
中田順二
京都市下京区間之町五条下ル大津町八番地
被告
下京税務署長 神田俊彦
右指定代理人
山崎敬二
同
長田義博
同
田中滉
同
谷口幸夫
同
山村仁司
同
谷崎文雄
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
1 被告が原告橋本孝夫、原告橋本典子に対し、平成七年一月二三日付けでした相続税の各更正のうち、それぞれ納付すべき税額四億一〇一三万三八〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。
2 被告が原告矢野原美子に対し、平成七年一月二三日付けでした更正すべき理由がない旨の通知処分及び平成八年一〇月三日付けでした相続税の更正のうち納付すべき税額一億九一三九万五七〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。
3 被告が原告石田由美子に対し、平成七年一月二三日付けでした更正すべき理由がない旨の通知処分及び平成八年一〇月三日付けでした相続税の更正のうち納付すべき税額二億〇〇五〇万九八〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。
第二事案の概要
一 本件は、原告らが、被相続人橋本與一郎(以下「與一郎という。)の相続にかかる相続税について、相続財産である土地の評価に当たり賃借権価格を控除しなかったなどと主張して、被告のした右更正等(以下「本件各処分」という。)の取消しを求める事案である。
二 争いのない事実等
争いのない事実又は証拠により認定することができる事実は次のとおりであり、〔 〕内は認定に供した証拠である。なお、平成四年法律第一六号による改正前の相続税法を以下「法」という。
1 (相続)
(1) 椅本(以下「さ紀」という。)は、與一郎の妻であり、原告橋本孝夫(以下「原告孝夫」という。)、原告橋本典子(以下「原告典子」という。)、原告矢野原美子(以下「原告矢野原」という。)、原告石田由美子(以下「原告石田」という。)は、いずれも與一郎の子である。
(2) 與一郎は、平成三年七月二六日死亡したが、その相続人として、さ紀及び原告らの他に先妻との間の子である橋本昌之と、中本幸子がいる。
2 (遺言、遺産分割協議)
(1) 與一郎は、昭和五九年一二月二七日付けで公正証書遺言をした。〔乙四〕
(2) 與一郎の共同相続人は、平成四年一〇月一〇日付けで遺産分割協議をし、その協議書を作成した。その内容は、特定の財産については各相続人が取得し、合意のない分については右公正証書遺言に従って取得するというものであった。〔乙三〕
3 (本件各処分に至る経緯)
(1) 原告らは、平成四年一月二七日、被告に対し、別表「課税の経緯」の<1>欄記載のとおり、相続税の申告書を提出した。
(2) 原告らは、平成五年一月二六日、被告に対し、同表<2>欄記載のとおり、更正の請求をした。
(3) これに対し、被告は、いずれも平成七年一月二三日付けで、原告矢野原と原告石田に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をするとともに、原告らに対し同表<4>欄記載のとおり、更正をした。
(4) 原告らは、同年三月二二日、同表<5>欄記載のとおり、異議申立てをした。これに対し、被告は、同年六月一二日付けで、原告孝夫と原告典子の異議申立てを棄却し、原告矢野原と原告石田については同表<6>欄記載のとおりとする旨の異議決定をした。
(5) 原告らは、同年七月一一日、同表<7>欄記載のとおり審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成八年六月二八日付けでこれらを棄却する旨の裁決をした。
(6) この間、被告は、原告矢野原と原告石田に対し、平成七年八月二五日付けで同表<8>欄記載のとおり更正を、平成八年一〇月三日付けで同表<10>欄記載のとおり更正をした。
4 (本件各処分の理由)
被告が本件各処分をした理由は次のとおりである。
(1) 財産の取得者について
前記のとおり遺産分割協議がなされたため、各相続財産の取得者は別表2から4の各取得者欄記載のとおりである。なお、遺産分割協議書及び遺言書には、別表3の順号21、22の各家屋及び別表4の順号5の有価証券に関する記載がなく、右遺産は遺産分割が行われていないと認められたので、法五五条により原告らが法定相続分の割合で取得したものとして課税価格を算出した。
(2) 土地の価額について
本件相続財産のうち、各土地を関係通達、租税特別措置法により評価すると、その価額は別表1の<1>欄記載のとおりであり、その内訳は別表2記載のとおりである。
右各土地のうち、容積率が異なる地域にまたがる土地は、平成四年八月二七日付け国税庁長官通達「一画地の宅地が容積率の異なる二以上の地域にわたる場合の評価について」(平成四年八月二七日付課評二-一一、課資一-一六。以下「容積率補正通達」という。)に依拠して評価しているが、その計算関係は、別表2付表1記載のとおりである。なお、宅地の評価は、利用の単位となっている一区画の宅地ごとに評価するが、別表2の順号21-2から23の土地、順号42(甲)及び順号42(乙)の土地は、一体のものとして容積率補正率を計算している
(3) 家屋について
本件相続財産のうち、各家屋を関係通達、租税特別措置法に基づき評価すると、その価額は別表1の<2>欄記載のとおりであり、その内訳は別表3記載のとおりである。
(4) 動産について
本件相続財産のうち、各動産を関係通達等に基づき評価すると、その価額は別表1の<3>欄記載のとおりであり、その内訳は別表4記載のとおりである。
(5) 相読財産の価額について
右(1)から(4)のようにして計算すると、原告らが取得した相続財産は、別表1の<4>欄記載のとおりである。
(6) 債務控除について
本件で控除すべき被相続人の債務及び被相続人にかかる葬式費用は、別表1の<5>欄記載のとおりであり、その内訳及び負担者は別表5記載のとおりである。
(7) 課税価格について
各人の相続税の課税価格は、右のとおり計算した取得財産の価額から債務額を控除したものであり、その金額は、別表1の<7>記載のとおりである。
(8) 相続税額の総額について
課税される遺産総額は、課税価格の合計額である七四億七八四六万九〇〇〇円から基礎控除額九六〇〇万円を控除した残額七三億八二四六万九〇〇〇円であり、これを各相続人の法定相続分に応じて按分すると、別表1の<12>記載のとおりであり、これに法所定の税率を乗ずると、同表<14>記載のとおりとなり、右の合計額である相続税の総額は四六億七六三二万四八〇〇円となる。
(9) 各人の相続税額について
原告らの各課税価格は、別表1の<7>欄記載のとおりであり、その課税価格の合計額に占める割合は、同表<8>記載のとおりである。そこで、相続税の総額四六億七六三二万四八〇〇円に右割合を乗じると、原告ら各人の相続税額は、同表<15>記載のとおり、原告孝夫及び原告典子がそれぞれ四億四一六二万七九〇〇円、原告矢野原が二億四九六八万三七〇〇円、原告石田が二億五六〇二万四二〇〇円となる。
(10) 本件各処分について
本件各処分は、原告孝夫及び原告典子の納付すべき税額はそれぞれ四億三九三八万五一〇〇円、原告矢野原の納付すべき税額は二億四八六九万三七〇〇円、原告石田の納付すべき税額は二億五五〇三万四二〇〇円とするものであるところ、被告主張の右(9)の相続税額の範囲内でなされたものである。
三 争点及び当事者の主張
1 借地権について
(1) 原告ら
相続人間において、別表2の16、17、19、22、31-2の土地(以下「本件土地」という。)上の建物を相続したさ紀に右土地の借地権を帰属させる旨の遺産分割協議をした。したがって、本件土地を評価するについて借地権価格を控除すべきである。
(2) 被告
本件土地について、さ紀のために借地権を設定する旨の相続人間の遺産分割協議はなかった。仮に、さ紀が、本件土地上の建物の相続に付随して右土地につき何らかの敷地利用権を取得したとしても、原告らとの身分関係からすると、右利用権は使用借権であると解するのが相当である。
2 容積率補正について
(1) 原告孝夫及び原告典子
容積率補正通達は、平成四年一月一日以降に開始した相続に適用されるものであり、本件の相続に遡って、別表2の順号4の土地の評価についてこれを適用することは許されない。
(2) 被告
別表2の順号4の土地は、路線に面した部分から奥行二五メートルまでの部分の容積率は三〇〇パーセント、その余の部分の容積率は二〇〇パーセントで、容積率の異なる地域に跨がるものである。ところが、右土地の路線価は、容積率が三〇〇パーセントである土地を前提としたものであって、容積率が二〇〇パーセントである部分があることが何ら反映されていなかったため、この事情を斟酌し評価額を原告らに有利に減額するため容積率補正通達における計算方法によることとしたもので、適法なものである。
第三当裁判所の判断
一 争点1(借地権)について
原告らは、共同相続人間で本件土地につき同地上の建物を相続したさ紀のために借地権を設定する旨の遺産分割協譲をした旨主張する。
しかし、原告らは、平成四年一月二七日に相続税の申告書を提出したときに借地権の存在を前提とする申告をしなかったし(弁論の全趣旨)、また、証拠(乙三)によれば、遺産分割協議書には、中本幸子が分割を受けた建物に関してはその敷地利用権に関する記載があるのに対し、さ紀が分割を受けた建物に関しては敷地利用権に関する記載はないと認められる。
右事実に照らせば、共同相続人間において、本件土地についてさ紀のために借地権を設定する旨の遺産分割協議をしたとは認め難いというべきであり、むしろ、原告らとさ紀の親族関係をも考慮すれば、本件土地についてのさ紀の利用権限は親族間の情義に基づく使用借権であると認めるのが相当である。
二 争点2(容積率補正)について
原告孝夫及び原告典子は、別表2の順号4の土地の評価について容積率補正通達を遡及的に適用することは許されないと主張し、証拠(乙二)によれば、客積率補正通達は、平成四年一月一日以降に相続等により取得した財産の課税価格の計算の基礎となる土地等の評価について適用するとされていることが認められる。
しかし、証拠(乙二、弁論の全趣旨)によれば、建築基準法は、用途地域等に応じた容積率の規制により、土地上の建築物に対する制限を加えており、容積率の制限の程度により土地の価格は影響を受けるところ、容積率補正は一画地の宅地が複数の容積率の制限を受ける場合に、個別的事情に即した適正な価格を算出するための手法であって、容積率補正通達が創設した制度ではないこと、別表2の順号4の土地の容積率は、路線に面した部分から奥行二五メートルまでの部分の容積率は三〇〇パーセント、その余の部分は二〇〇パーセントであり、路線価は容積率三〇〇パーセントの部分を前提としたものであったため、被告は、右土地の価格を算定するについて、右のような事情を考慮して、容積率補正通達の定める計算方法(右計算方法に不都合な点は窺えない。)により価格を算定したこと、その結果、原告らが主張する方法により一画地全体を評価する場合と比較して、評価額は低額となり、納付すべき税額も低額となったことが認められる。
右認定の事実に照らせば、別表2の順号4の土地の評価に際して、通達の適用開始時期にかかわりなく、容積率補正通達に定めた計算方法を採用したことをもって違法なものということはできない。
三 本件各処分について
本件各処分は、前記の争いのない事実等の4記載のとおりなされたものであり、他に違法とすべき事由も認められないから(原告らは、争点以外は争っていない。)、適法になされたものというべきである。
なお、原告らは、物納財産の収納額に関する不服をいうが、これらは本件各処分の取消しを求める事由には当たらない。
四 結論
以上のとおり、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
本件口頭弁論終結の日 平成一〇年一二月二五日
(裁判長裁判官 大谷正治 裁判官 山本和人 裁判官 西田政博)
別表
課税の経緯
<省略>
別表1
相続税額の計算
<省略>
別表2
土地の明細表
<省略>
別表2(続)
土地の評価明細表
<省略>
別表2(続)
土地の評価明細表
<省略>
(別表2)付表1
容積率補正率の明細表
<省略>
(別表2)付表2
順号4、45、47(租税特別措置法69条の3の適用がある土地)の評価明細表
<省略>
別表3
家屋の明細表
<省略>
別表4
動産の明細表
<省略>
別表5
債務等の明細表
<省略>